エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
朝、家を出る時はまだ雨は降っていなかったが、念のためと千春は傘を持ってきた。それを小児病棟の傘立てに置きっぱなしにしてきてしまったのだ。
「私、取りに戻ります。先に帰っててください」
千春はそう言って、手を振るふたりに頭を下げてから、踵を返した。
病棟で傘を見つけた千春は、途中お手洗いに立ち寄る。
でもドアのない女子トイレを入ろうとした時、中にいると思しき女性たちの会話が耳に入り足を止めた。
「ねー、さっき来てたんでしょ。ほら、あの人。八神先生の奥さん」
「うん、いたよ。読み聞かせの会に入ったんだって」
千春のいる位置からは、後姿しか見えないが、なんとなく見覚えがある。病棟にいるスタッフだろう。私服だということは、仕事あがりだろうか。
「それにしても残念ね、八神先生が結婚しちゃうなんて。私の心の王子さまだったのに」
女性のひとりがため息をつく。
千春は女性たちからは見えないように一歩下がる。でも立ち去ることはできずに耳は彼女たちの会話に釘付けだった。
「なんで急に結婚しちゃったのかな。八神先生ずっとアメリカにいて、相手の人も入院してたんでしょ? 最近出会って恋に落ちてスピード結婚ってこと?」
「そんなわけないじゃない。奥さんユウキ製薬の御令嬢なのよ。恋愛結婚じゃないわ。ただの政略結婚」
どこか馬鹿にしたような女性の言葉に千春の胸はズキンとなる。
政略結婚、そんな大袈裟なものではないが、恋愛結婚ではないのも確かだった。
「私、取りに戻ります。先に帰っててください」
千春はそう言って、手を振るふたりに頭を下げてから、踵を返した。
病棟で傘を見つけた千春は、途中お手洗いに立ち寄る。
でもドアのない女子トイレを入ろうとした時、中にいると思しき女性たちの会話が耳に入り足を止めた。
「ねー、さっき来てたんでしょ。ほら、あの人。八神先生の奥さん」
「うん、いたよ。読み聞かせの会に入ったんだって」
千春のいる位置からは、後姿しか見えないが、なんとなく見覚えがある。病棟にいるスタッフだろう。私服だということは、仕事あがりだろうか。
「それにしても残念ね、八神先生が結婚しちゃうなんて。私の心の王子さまだったのに」
女性のひとりがため息をつく。
千春は女性たちからは見えないように一歩下がる。でも立ち去ることはできずに耳は彼女たちの会話に釘付けだった。
「なんで急に結婚しちゃったのかな。八神先生ずっとアメリカにいて、相手の人も入院してたんでしょ? 最近出会って恋に落ちてスピード結婚ってこと?」
「そんなわけないじゃない。奥さんユウキ製薬の御令嬢なのよ。恋愛結婚じゃないわ。ただの政略結婚」
どこか馬鹿にしたような女性の言葉に千春の胸はズキンとなる。
政略結婚、そんな大袈裟なものではないが、恋愛結婚ではないのも確かだった。