エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
「くそっ! あの男はいったいなにを考えているんだ。もう千春など用済みだろうに……とにかく結納の日は決定だ。それでとりあえずは大林先生も納得されるだろう。いくらなんでも入籍までには、届けが出るだろうし。おい、千春お前それまで家から一歩も出るな。澤田! 今度こそ絶対に逃すなよ」

 今だって外出などさせてもらえていないのに、そんなことを言って叔父は屋敷へ入っていった。
 千春は震える手を握りしめて目を閉じた。
 いよいよこの時が来てしまった。
 本当に自分は清司郎以外の人と結婚するのだ。
 脳裏にあの夜の清司郎が浮かんだ。
 この家に来て一カ月、つらいことがあると条件反射のようにあの夜のことを思い出すようになっている。
 そうすればほんの少しだけ勇気をもらえる気がするのだ。
 あの嵐の夜、清司郎はまるで宝物に触れるかのように大切に大切に千春を抱いてくれた。
 千春のペースを守りながら、最後まで優しく導いてくれた。

『愛してるよ、千春。俺のものだ。俺の妻だ』

 耳元で繰り返された愛の言葉が千春の胸に輝いている。
 たとえそれが、ベッドの上での彼の気遣いのようなものだとしても、あの夜だけは千春は清司郎の本当の妻だった。
 千春はゆっくりと目を開いて、空を仰ぐ。
 この先、誰と結婚しようとも千春の心はずっとずっと変わらない。
 青い空に、そう誓う。

「千春さん、もういい加減中へ入ってください。結納が決まったならやることは山ほどあるんですから」

 イライラして澤田が言う。
 千春はそれをチラリと見て、ゆっくりと立ち上がった。
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