エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~

清司郎の苦悩

 夜勤明け、八神総合病院の個室の扉を開けた清司郎は、軽いめまいを感じて仮眠用のベッドへ倒れ込む。
 ここのところ働き詰めだった。
 もう何日休みを取っていないか自分でもわからないくらいだが、非番の今日も同僚に代わり出勤した。今の清司郎にはそれが必要だったからだ。
 病院にいて医師としての役割を果たし続ける。そうでもいていないと気が狂ってしまいそうだった。
 千春が家を出て、約一カ月が過ぎた。
 その間の清司郎は、彼女が出ていった理由を探し続ける日々だ。
 あの夜、清司郎に本当の妻にしてほしいと言った千春。
 好きだといって胸に飛び込んできた彼女を、清司郎はそのまま抱いた。
 そして今までの分を取り戻すかのように愛の言葉を思うままに繰り返したのだ。
 清司郎から押し付けることはできなくても、彼女が望むのであればいくらでもどれだけでも惜しみなく与えられる。
 清司郎の中にそれは無限にあるのだから。
 どこか手探りだった千春とのはじめての夜。
 なるべく負担をかけないように、ゆっくりと、丁寧に。
 でも最後にはくたくたになって、ほとんど眠るように目を閉じていた千春を先に寝かせて、隣で眠ったあの時が、清司郎の人生で一番幸せな時だった。
 今この時のために自分は生きてきたのだと、そう確信していたのに……。
 目が覚めてみれば隣に千春はいなかった。
 自室は綺麗に片付けられていて、『ありがとうございました』という書き置きと、離婚届、それから携帯が残されていたのだ。
 あの日から清司郎は一度も千春に会えていない。
 結城芳人の話では、実家にいるということだ。
 とりあえず、行方不明ではないことには安堵したが、だからといってそこが彼女にとって安全な場所でない以上、完全に安心はできなかった。
 なによりも、なぜ彼女が自分になにも言わないで実家に帰ってしまったのか、その理由に見当がつかないのがつらかった。
 それから清司郎は何度も結城家を訪れたが、未だ一度も会えていない。
 そして数日前に離婚を申し立てる旨の連絡を弁護士から受けたのだ。
 姿を見ることすらできなくては無事かどうかもわからなかった。
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