エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 千春の身体は夕日に染め上げられたように真っ赤になる。その千春をバスローブで包んでから、清司郎が口を開いた。

「ほかの男のために着飾った千春を見るのは我慢できない」

 その傷ついたような眼差しに、千春の胸がズキンと痛んだ。
 清司郎は立ち上がり、また千春に背を向ける。
 窓際に立ち夕日を眺める彼の背中に、かける言葉を見つけられなかった。
 千春がなにも言わずに清司郎の元を去ったのは、彼の未来を守るため。
 でもその行動は彼を裏切るものだった。
 彼はいったいどんな思いでこの一カ月を過ごしたのだろう。

「清君……」

 重い沈黙がふたりの間に横たわる。
 清司郎がゆっくりと振り返り、今まで聞いたことがないような低い低い声を出した。

「……はじめの見合いの時もそうだった」

「……え?」

「見合いの時も千春は俺になにも言わなかった。俺はそんなに頼りにならないのか」

「清君……」

「手術が終わったら見合いだとあらかじめ言われていたなら、俺に相談すればよかったんだ。そうすれば必ずどうにかしてやった」

 静かだけれど怒りを帯びたその声音に、千春はなにも答えられない。

「今回もそうだ」

 清司郎の鋭い視線が千春を刺した。

「あいつに脅されていたなら、すぐに俺に言えばよかった。ひとりで実家に帰ったらこうなるのは目に見えていただろう‼︎」

 静かな部屋に清司郎の声が響く。
 激昂して声をあげる清司郎に、千春の心は熱く震えた。
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