エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 そして二カ月が経ったある日、清司郎は千春の病状を父親から聞かされたのだ。

『治らないって……?』

『今のところはな。できるのは進行を遅らせることくらいだ』

 そう言ってため息をつく父親を清司郎は信じられない思いで見つめた。
 そんなことありえない。
 八神総合病院は、心臓病では国内一だ。
 優秀な外科医がたくさん在籍し、全国から集まる患者に最高の医療を提供する父の病院。その最高の医療を持ってしても治せない病気があるなんて。
 頭をハンマーで殴られたような衝撃だった。
 唖然とする清司郎に、父が再び口を開いた。

『だが望みがないわけじゃない。アメリカでは新しい治療法の研究が進められていて、数年後には臨床試験に入ると言われている』

『その治療法が成功すれば、千春は治るんだな』

 清司郎の言葉に父はしばらく考えてからゆっくりと首を横に振った。
 もう中学生の息子には現実を伝えることにしたようだ。

『そううまくはいかんよ。その治療法が成功しても、それを日本でやれる医者が育つためには何年もかかる』

『父さんは?』

『医療技術を学ぶというのは一日二日でできることではない。場合によっては何年もかかる話なんだ。俺が行くわけにはいかん。その時に技術を学ぶに足る優秀な医者がいて、本人が希望する場合にだけ成り立つ話だ』

 その雲を掴むような話に、清司郎は黙り込んだ。
 新しい治療法が見つかって成功し、さらにそれを学ぼうとする医師が日本から行かなければ、千春は長くは生きられない。
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