エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
 つまりは、倉橋が千春を名前で呼ぶことにした甲斐もなく、千春と清司郎の結婚は、結局バレてしまっているということだ。
 するとその時、後ろで「あら」という声がした。
 振り返ると、見覚えのある看護師の女性が笑顔で千春の方を見ていた。

「結城さんじゃない。元気そうね」

 女性は千春を旧姓で呼びながら千春の方へやって来る。以前入院していた頃に千春の病棟にいた看護師だった。

「お久しぶりです。その節はお世話になりました」

 千春は、深々と頭を下げる。

「久しぶりね」

 看護師はそう言って、嬉しそうに微笑んだ。

「随分元気そうじゃない。顔色もいいわ。別人みたいよ」

 その言葉に、千春は頬を染めて頷いた。

「はい、ありがとうございます」

「ふふふ、噂は本当みたいね」

 看護師は意味深な笑みを浮かべる。
 千春は首を傾げた。

「噂、ですか?」 

「八神先生とご結婚されたって噂よ。先生と一緒に住んでいるなら、そりゃ元気になるわよねぇ」

 くすくすと笑いながら言われて、千春は真っ赤になってしまう。どうやら清司郎と千春の結婚は、千春の想像以上に広まっているらしい。

「ご、ご存知だったんですね……」

 消え入りそうな声でそう言うのが精一杯だった。

「ご存知も、ご存知よ! もう病院中大騒ぎだったんだから。あの八神先生が結婚されていただけでもびっくりなのに、お相手が結城さんだったんだもの!」

 彼女は千春の病棟で一番元気な看護師だった。千春はそんな彼女が好きだったが、今は少し声を落としてほしい。
 小児科のナースステーションの女性たちが、身を乗り出すようにしてこちらの話を聞いている。
 千春は手をもじもじとさせた。

「そんな……大騒ぎなんて、大袈裟な……」
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