再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
「兄貴の嫁さん、パンやお菓子作りが趣味でね。時々実家から大量に届くんだよ」
「へー」

「我が家は両親ともに医者だったし、病院を経営していて常に忙しかったから食事はほとんど家政婦さん任せで母さんはあんまり料理をしない人だった。もちろん学校の行事にはちゃんと来てくれたし、兄姉もいたから寂しいと思ったことはないんだが、家庭を守ってくれる主婦って存在に憧れがあるんだろうと思う。姉貴は医学部を卒業したくせに医者にもならずに家でも続けられる翻訳の仕事を始めたし、兄貴も家庭に入ってくれる人を嫁さんにした。きっと、母さんへの反発もあるんだろうと思うよ」
「ふーん」
相槌を打ちながら、どんどん下を向いていく彼女。

「でも、俺は兄さんたちとは違う。結婚相手に俺の世話をしてほしいとは思わない。自分のことはみな自分でやるべきだ。それに、母さんのように仕事を持つ女性を立派だと思うしね。和田先生も、仕事が好きだろ?」
ちょっと屈んで彼女の顔を覗き込んだ。

「やめてください」
「え?」
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