再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
「僕も、あれから考えたんだ。君の一生懸命さがかわいくてつい甘くなっていた。それがあの事故を起こした。幸い患者さんの命を奪うことも後遺症を残すこともなかったけれど、辛い思いをさせたことに違いはない。その責任は僕にある」

「だからそれは、」
「違わない。僕の責任だ」
「先生」

今日の皆川先生を見ていて、研修医を含め下の者に対する態度が以前より厳しくなったと感じた。
たとえ小さなことでも間違ったことはうやむやにせずにはっきりと指摘するし、態度が悪ければ強い言葉で叱責する。
それは、私が研修医だった頃にはなかったこと。

「この病院の研修医には『鬼だ』って言われているんだぞ」
「先生が、ですか?」
「うん、僕は妥協をしないから」

はあ、わかる気がする。
先生のカメラは精密で、いつも完璧を求めていた。私はついて行くのがやっとだった。


「和田先生」
「はい」

急に名前を呼ばれ、顔を上げた。

「もう気にするんじゃない。過去を忘れろって言うつもりはないけれど、僕も患者もちゃんと克服して今を生きている。だから、君も自分を許してやりなさい」
「・・・先生」

ポンポンと肩を叩かれ、目の前の景色が揺れる。
嫌だ、泣きたくない。
そう思っていても涙は止まらなくて、慌ててハンカチを出して目頭を押さえた。
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