エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める
 最後に会ったのが三年前。そして今、三年ぶりに再会している。

 月日が経ったというのに、こうして間近で彼を見ると、いつもよりも心拍数が速い気がする。

 もうとっくに淡い恋心など消えてなくなったと思っていたのに……違うの?

 自分の気持ちに困惑していたら、スッと文くんが近くに来た。

「ミイ、久しぶりだな。元気だったか?」

 ふいうちでそばにいるだけで心臓が止まりそうなほど驚いた。
 それなのに、久しぶりに文くんの柔らかい声で『ミイ』って呼ばれてさらに鼓動が高まる。

「あっ、うん。元気。文くんも元気そうだね」
「ああ。体力には自信あるからな。忙しいからって倒れていられないし」

 愛称で呼ばれるたび複雑な思いを抱くのは、どうやら今も変わらないみたい。
 文くんに近しい存在のように思えて、その実単なる妹扱いなんだって感じる。

 それでも、ふいに見せられた彼の笑顔には見惚れてしまうんだから、私も大概往生際が悪い。

 気心知れた相手にだけ見せる彼の柔和な表情は、昔から私の特別だった。……いや、私が特別になれた気がした。

 それは私の思い込みだって薄々感じたから、あきらめたんだけど……。

「そうよね。お医者さんだもの。でも、勤務医は激務だって昔から聞いてたし、あまり無理しないでね」

 今一度、もう不毛な片想いは卒業したんだと自分に言い聞かせて口角を上げた。
 すると、文くんが柔らかな眼差しを向け、ポンッと頭に手を置く。そのまま軽く撫でて、ひとこと言った。

「わかった」

 触れられた箇所だけ変な感覚が残ってる。心臓は早鐘を打ち、言葉も出なくてそわそわと目を泳がせる。

「で、ミイは今、作家一本でやってるんだって? まあ、俺は驚かなかったけど。昔から読書が好きだったもんな。これでミイも〝先生〟なわけだ」
「や、やめて。そんな大層なものじゃないの」

 私は物心がついた頃から本が好きで、多くの本を読んできた。
 そのうち、自分で物語を書いてみたくなって、趣味で書き始めたのが中学生。
 その後も自分のペースで書きたいものを綴っていたのだけれど、短大在学中に応募した作品が見初められ、作家デビューを果たした。

 私は手にしていたプレートを、一度テーブルの端に置いた。

「なんで。仕事増えて会社辞めてそっちに専念してるんだろう? 立派な作家じゃん」

 文くんがいない間の出来事を知られていて目を丸くした。
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