エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める
 それから数十分後に真美ちゃんは帰っていった。

 私を落ち着かせるために、お客さんである真美ちゃんがお茶を淹れてくれた。それはとても美味しくて心が安らいだ。

 カップ片付けながら、姉御肌の真美ちゃんを思い出すだけで頬が緩み、気持ちが軽くなったのを実感する。

『いい? 文尚と一緒にいる時はなるべく気持ちをストレートに言葉にするの。あとのことは私に任せて。ちょっと考えがあるから』

 真美ちゃんはそう言い残して帰っていった。

 考えがあるって、どういうことだろう。

 その場で聞く間も与えられず、真美ちゃんはバタバタと帰っていってしまった。
 まあ、だけど真美ちゃんの言う通りにしてみてもいいかもしれない。

 どうせもう引き返せないんだから、やりきったほうが未練も残らない気はする。
 誰かに話したことで気持ちが落ち着いた。

 夕食の支度をし、食事や入浴を終えた後は、リビングにノートパソコンを持ち込んで仕事をしていた。

 部屋に籠り続けていたら、文くんと関わる時間が少なくなる。とにかく一分でも多く時間を共有できるように。

 真美ちゃんの言葉を守るためには、勇気を出して日常を変えていく必要がある。
 これでなにかが変わるかもしれないなら。

「ただいま」

 そうこうしている間に文くんが帰ってくる時間になっていたみたいで、声をかけられて私は慌てて顔を上げた。

「びっくりした……おかえり」

 いつも、玄関に近い部屋だから帰宅してきたらすぐ気付く。だけどリビングだとちょっと距離があって音が聞こえなかった。

 文くんはカバンをダイニングチェアに置いて、コートを脱ぐ。

「こっちで仕事してるの? めずらしい」
「あ……うん。たまに気分転換にいいかな?って。あ、邪魔だったらすぐ」
「いい。邪魔じゃないよ。どの部屋でも好きに使ってって最初に言っただろ。俺こそ邪魔ならすぐ部屋に行くから」
「ダ、ダメッ」

 咄嗟に椅子から立って否定したものの、それらしい理由がまだ思い付かない。

 私が部屋を出てきたのは文くんと一緒の時間を作るためなのに、文くんがいなくなっちゃったら本末転倒だ。

「えっと、ほら。ずっとひとりで作業してるとね。誰かと話したいなー、なんて」
「なるほど。じゃ、話し相手になりましょうか」

 文くんはわざと丁寧な口調で言って、斜向かいに座る。

 そんな風に畏まられるほど、大した会話もできないのにどうしよう。

 内心慌てふためいていると、彼はクスッと笑いを零した。おそらく、私が動揺しているのをわかっていて眺めていたんだと思う。
 こういう些細な瞬間に、余裕の違いを見せつけられて年齢差を突きつけられる。
< 61 / 138 >

この作品をシェア

pagetop