エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める
「本当に……?」

 くぐもった声は震えていた。
 俺は宙で彷徨わせていた両手を、そっと澪の背中に添える。

「私、文くんの言った通り経験ないから……わ、わかんないけど……詳しいこと……。でも、文くんがしてくれることなら全部幸せだと思う」

 澪は手に力を込めたまま、懸命に気持ちを伝えようとしてくれている。
 大人になっても、根本的なところは変わらない。純粋で、守りたくなる。

 そう思うのは本当なのに、もう一方で欲望に駆られる気持ちもある。

 普段は制御できても、この体勢と状況、そして澪の可愛すぎる発言を聞いてしまったら……。

「今ならまだ辛うじて止められる……って思ってたんだけど」

 さすがに『後者の自分』が勝ってしまう。

「こうも可愛く迫られたらね……」

 ツッときめの細かい柔らかな頬に指を滑らせる。その刺激で澪が顔を上げた隙を見逃さず、俺は唇を寄せた。

「――ン、っふ、んん」

 深いキスへと誘い、澪の甘い声を引き出す。

 さっきまで夕陽が射し込んでいたオレンジ色のリビングは、いつしか薄暗くなっている。どちらも照明のことなど頭にはなく、静かな空間の中、夢中で互いの唇を貪っていた。

 ゆっくりと鼻先を離していき、瞼を押し上げる。彼女の長い髪を押さえ、熱を帯びた綺麗な双眼を見つめた。

「無垢過ぎて、なんだかいけないことしてる気分になる」

 澪は恥ずかしい気持ちを押し隠すような表情をしたのち、目を閉じて静かに頭を横に振った。
 再び彼女の漆黒の瞳が露わになると、至極真剣な眼差しを向けてくる。

 それは彼女の覚悟と本気の気持ちが表れていて、俺は受け止める以外考えられなかった。

「そのまま、俺に委ねて――澪の全部を俺にくれ」

 声がほんの僅かに掠れた。
 それほど俺自身も緊張しているのだとわかる。

 もう長いこと俺の身近にいた澪。
 物心がついたあたりからずっと、俺に懐いて慕って、無条件で好意を向けてくれる、そんな存在だった。大切な家族だって感覚だった。

 大人になった澪と再会するまでは。

 根底にある大事さは変わらない。
 けれど、俺の指先がちょっと掠めただけで瞳を潤ませ、頬を朱に染める彼女に大きく動揺してる。

「ふ、みく……ンッ」

 もっと、その目で俺だけを見ていてほしい。
 瞬間的に感情を昂らされるその甘い声音も、色っぽい表情も……誰にも見せたり聞かせたりさせたくない。

 胸の奥から突き上げてくるこの衝動は、これまで一度も経験したことのないもの。

「……澪」

 透き通るような白い肌に唇を這わせ、時折〝しるし〟を残す。
 俺はもう冷静さが薄れていて、自分の腕の中にいる澪を独占するのに必死だった。

 もうよくわからない。こんな感情は知らない。

 ただただ、澪が愛おしい。
< 93 / 138 >

この作品をシェア

pagetop