エリート脳外科医は契約妻を甘く溶かしてじっくり攻める
「はい、これ」
「ありがとう」

 真美ちゃんがたくさんのスキンケアコスメのサンプル品をくれる。
 束の間、しんと静まり返った際に、ここで切り出していいかどうかタイミングを見計らった。

 私はずっと、真美ちゃんとゆっくり話したいと思っていた。

 というのも、私と文くんが偽装の恋人だと知られたあの日以降、直接連絡を取っていなかったから。

 文くんへたくさん女性を紹介していたみたいだったけど、なぜそんなことをするのか、電話やメッセージで追及する勇気がなかった。

 私は真美ちゃんとも仲良しには違いない。
 ただ年齢もひと回り上だし、やっぱり多少は気を遣ってしまう。

 真美ちゃんは私のことを可愛がってくれてるのはわかるから、なにか理由はあるはずだって思ってはきたけれど……。

 そうして、意を決して口を開く。

「真美ちゃん、ずっと聞きたかったんだけど」

 彼女は振り返って緊張でガチガチな私を見た矢先、苦笑いを浮かべた。

「文尚に私が大量のメッセージ送りつけたことでしょ? まああれはフェイクだったんだけど、予想外に効果があったってことかなー?」

 緊迫した雰囲気が一瞬で消え去り、私は茫然として真美ちゃんを見つめる。

「え? ちょっと待って。話がよくわからない……」

 真相がわからないから、私なりに色々考えた。

 その中でも、望みの薄い私の恋にケリをつけさせるために文くんの目を他に向けるのが手っ取り早いと考えたのかな、というのが濃厚な線だと思ってた。

 フェイクって……効果って一体……?
 疑問がありすぎて言葉にならない。

 困惑した視線を送ると、真美ちゃんは目尻を下げた。

「文尚がミイちゃんと結婚を決意したきっかけになったのかなって」
「きっかけ? 真美ちゃんのあのメッセージが?」

 混乱するばかりの私を見て、真美ちゃんはくすっと笑う。
「まあ座って」と私をベッドの脇に促した。

 私がおずおずと腰を下ろすと、彼女はその隣に座る。再び緊張して膝の上に両手を揃え、話の続きを待った。
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