過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「ここの雰囲気が気に入った。この教会で本当に親しい人たちだけを招いた結婚式を作ってみたいと思って、すぐに動き出した。その過程で、美香のデザインと出会ったんだ」
「私の?」

たしかに、これまでいくつかのドレスを仕上げてきたから、拓斗が見かける可能性はゼロではない。
ただ、どんな偶然が重なったらそうなるのだろうか。彼がフェリーチェやエテルナの仕事に目を向ける機会など、そうそうあるとは思えない。

「ああ。たまたま目に留めてね。デザインにも一目惚れってするんだな。逃がしちゃいけないって思った。だから、美香には申し訳ないけど少し調べさせてもらった。それまで携わった他の作品とか、どんな人物なのかとかね」

だから私のプライベートまで細かく知っていたのか。それにしては、知られすぎている気もしなくもないが。
まったくの赤の他人にそんなふうに言われたら、ゾッとしていたかもしれない。けれど、相手はすっかり気を許している拓斗だ。今となってはさほど気にはならなかった。

でも、ちょっと待って。
そうだとしたら、拓斗はバーで出会うより前に私を知っていたというのか。あの後再会したときに感じた違和感は、やはり間違いではなかったのかもしれない。

この人は初めて会った夜以前から、私を知っていたのだ。
いろいろと考え込んでいると、拓斗は苦笑して頷いた。

「直接顔を合わせたのは、あの夜が初めてだ。美香のデザインを見てコンタクトを取ろうと思っていた矢先に、思わぬところで見つけて声をかけた。あのとき、君の事情はいろいろと掴んでいたのもあって、助けてあげたいって思っていた。だからどんな状況であれども、いずれ結婚を申し込む気でいたよ。ただ……体の関係からはじめるなんて、不誠実なことをするつもりはなかった。あの夜の君は、どうしてもひとりにしておけなくて。すまない」
「そ、それは……酔っていたとはいえ、私も納得した上だったので……そ、その、逃げるようにしていなくなったのは申し訳ないですが」

だめだ。あの夜を思い出したら恥ずかしくなってしまう。

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