過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
期待と裏切りと
野々原(ののはら)さん。これ、あなた挑戦してみたらどう?」

にっこりとほほ笑み、片手に持った用紙を示しながらそう告げてきたのは、私の憧れの上司であり、目標にしている女性の梶原久々莉(かじわらくぐり)だ。
仕事中の彼女の装いはモノトーンのコーディネートが定番で、今日はグレーの半そでのカットソーに、黒のクロプトパンツでまとめている。女性としては長身な彼女によく似合っており、飾り気もないというのになぜか魅力的に見えるのは、そのスタイルの良さだけでなく久々莉だからこそだと私は思っている。
緩くパーマをかけたセミロングの髪は無造作にひとまとめにされているが、サイドにたらされた一筋が色気を醸し出しており、同姓である自分ですらも時折ドキリとさせられてしまうほどだ。

無難なパンツスーツに、控えめなショコラブラウンに染めた髪をただひとつにまとめただけの自分とは何もかもが違う。せめてと、シュシュだけはこだわってオシャレなものをつけているものの、久々莉のようなスタイリッシュさとは程遠い。

久々莉は整った容姿をしているが、一見冷淡そうに思われてしまいがちだ。しかし彼女は、懐に入れた人間に対して実に情に厚く親身に寄り添ってくれる人だと、数年の付き合いになる自分はもちろん知っている。

彼女は私のためになると判断して、何やら話を持ってきたのだろう。

「あなたがその気なら、私が推薦するわ」
 
受け取った用紙の、〝パリ〟〝研修〟という文字に目を留めた。会社による海外での研修の通知で、昨日発表されたばかりのものだ。期間は一年間と長く、行くにはそれなりの覚悟が必要になるだろう。

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