過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
『ふたりのことだから、あまり言えなかったの。彼が歓楽街で女性と歩いているのを数回見かけたわ。遠目だったから断定はできないけれど、連れている相手もまちまちのようで。とても仕事がらみで出かける場所とは思えなくてね』

きっとこれまで久々莉は、言いたくても我慢していたのだろう。それでもたまに声をかけてきたのは彼女の正義感と優しさからだと思う。

「……つまり、前々から浮気されていた可能性があるんですね」

長い付き合いとはいえ、会える回数が多いわけではなかった。それでも焦らずにいられたのは、信頼関係を築けているからだとてっきり私は思っていた。
相手を信じ切った私の目を欺くなど、簡単だっただろう。

『ごめんなさいね。私はそう思っていたけど、他人がどこまでかかわっていいのかと迷ったら、確信もないのに断言はできなかったの』
「いえ。それでも久々莉さんは気づいた時に声をかけてくれましたから。私の方こそ、心配をかけてしまってごめんなさい」

それからしばらく話をして、電話を切った。

あくまで、久々莉から見た事実を聞いただけだ。朔也からも話を聞かなければ、彼が浮気をしていたと決めつけるわけにはいかない。
けれど、肝心な本人とはまったく連絡がつかないのではどうしようもない。

私の中に、もやもやとした思いが広がっていく。浮気が本当なら、また違う意味で辛くなる。でも、気持ちに区切りは付けられるだろう。
曖昧な状態では、どうしてよいのか身動きが取れなくなってしまうから。
彼を信じてきた時間はそれなりに長い。今はその時間の長さに、苦しめられてしまいそうだ。

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