過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
仕事を終えて帰宅すると、もう一度朔也に電話をかけていた。日本時間を配慮してないのは承知の上だ。
彼に詳細を聞きたいのか、それともののしりたいのかはわからない。ただ、何かに急かされるようにそうしていた。

でも、やはりつながらない。
しばらくして諦めると、手早くシャワーを浴びた。

「はあ」

椅子に座って大きく息を吐きだしながら、久々莉との会話を思い出していた。
朔也が結婚するという三崎春乃を想像してみるも、その外見はもちろん、何も浮かんでこない。朔也はどんな女性を選んだのだろうか。
仕事の面から考えれば、春乃は朔也にとってよいお相手に違いない。彼の会社にとって、三崎グループとつながりができるメリットは大きいはず。

「納得、するしかないのかな」

消化しきれない思いはある。けれど、もう私の手の届く話ではなくなっているのだとわかっている。

それに……。
私だって別れを告げられた後とはいえ、他の男性と一夜を共にしてしまった。

『美香』

不意に拓斗が私を呼ぶ声を思い出して、顔が熱くなってくる。
慌てて首を振って追い払っても、耳に纏わりつく甘い声はすぐには消えてくれない。
名前を呼んで欲しかったのはこの声じゃないと、ひどく寂しく思ったというのに。

恥ずかしさと罪悪感に思わず俯くと、胸元に薄っすらとした赤い跡を見つけてドキリとした。キスマークだ。つけられていたなんて、まったく気づいていなかった。
昨夜の出来事は現実だと突き付けてくるようで、ますます心が乱されていく。彼の吐息も熱も、細かく思い出してしまいそうだ。

だめだ。少しばかり優しくしてもらったからといって、拓斗は縋っていい相手ではない。もう二度と会わないだろうよく知りもしない人の慰めに、思いを残しても意味がない。

忘れよう。
けじめをつけるかのように頬を軽く叩くと、さっさと寝支度を整えてベッドにもぐり込んだ。

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