過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
私が落ち着いてくると、わずかに体を離した拓斗が自身の手で目元をそっと拭ってくれた。不快に感じるなど何ひとつなくて、されるがまま受け入れてしまう。

「俺のところへ来い。俺が美香を守ってやる。それに、美香の才能もつぶさせやしない。だから……」

私の顎を優しく持ち上げられれば、思わぬ至近距離で二人の視線が絡み合う。漆黒の瞳に映っている自分は、ひどく不安げで頼りない。ちっぽけな存在なのだと、嫌でもわかってしまう。

「俺と結婚してくれ」

憧れるようなロマンチックなシチュエーションではなかった。
それなのに、拓斗のまっすぐな視線は私を捉えて離してくれそうにない。視線が逸らせなくなってしまう。

無意識のうちに、彼の服をぎゅっと掴んでいた。まるで拓斗という支えがなければ立っていられないような気さえしてくる。

守ってもらいたい。
それは甘えでしかないとわかっている。でも、今の私はあまりにも無力だ。

玄関のドアを開けて彼を部屋に上げてしまった時点で、答えはもう出ていたのかもしれない。そうしていいと思ってしまったぐらい、私は拓斗を信頼しているのだ。それを懲りもせずにとは感じなかった。

他人を信じるのは、今の私には少し怖い。
でも……。

「……よろしく、お願いします」

覚悟を決めて答えた声は、ずいぶん弱々しい。
それでも拓斗は、そんな私でも構わないとでもいうように満面の笑みを返してくれた。

「任せて、美香」

再び私を腕の中に収めた彼は、髪に口づけながら繰り返し何度も「大丈夫だ」と、私に言い聞かせるようにささやき続けた。

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