呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 最近はクリスとクゥのことばかり考えていたのでリックのことを考える時間は減っていた。気持ちの整理も当初よりはできたように思う。
 とはいえ、完全に立ち直ったかと尋ねられると首を縦に振るのは難しい。まだ胸の奥では、黒い感情が渦巻いているのだから。
 エオノラは深く息を吸い込んでから口を開いた。
「……もう済んだことだから気にしないで」
「本当?」
 すると、アリアはエオノラから離れるとパッと明るい表情でこちらを見上げてきた。

「実は私、パトリック――リックと来月教会で婚約式をするの!」
「え……婚約式?」
 頭を鈍器で殴られたわけでもないのに衝撃が走る。
 いくら両想いとはいえその展開は早すぎではないのだろうか。
「婚約式ってあの婚約式?」
「うん。狼神様の前で永遠の愛を誓うあの婚約式よ」


 婚約式とは初代国王であるアーサー王の時代から続くもので、番を見つけられなかった狼神に変わり、王族や貴族が永遠の愛を育むことを誓う、一種の仕来りのことだ。
 結婚式の半年前から一年前に行われるもので、教会にまつられている狼神の石像の前で男女が生涯相手を愛し続ける誓いを立てる。その誓いは結婚式が済むまで簡単に反故にすることはできず、婚約式となるとどの貴族も慎重になる。

 エオノラが驚いたのは婚約式までの期間が短く、早計であることは然ることながら、二人が制約をきちんと理解しているのかが分からなかったからだ。
 婚約式での誓いを反故にすれば、両家の名が教会の記録書に載ることになり、末代まで続く恥とされている。しかも記録書に載ったが最後、その一族は必ず没落し現存しない。
 ただの偶然と笑い飛ばせばそれまでなのだが、教会に名が刻まれた家が残っていないことを考えるとただの迷信だと一蹴することはできない。

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