呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 それからの記憶は曖昧であまり覚えていない。気がつくと死神屋敷の庭園にあるガーデンハウスの中にいて、暖炉の前に置かれた肘掛け椅子に座っていた。
 虚ろな瞳で周囲を見回すと、サイドテーブルに何枚もタオルが置かれている。その隣に腰を下ろしているクゥは心配そうにじっとこちらを眺めていた。
「あなたも濡れてしまったわね……早く乾かさないと風邪をひいてしまうわ」
 エオノラは暖炉の火を熾すと、サイドテーブルのタオルを一枚手にしてクゥの身体を拭くためにおいでと手招きする。と、クゥが突然立ち上がって、椅子の肘掛けに前足を置き、顔を近づけてくる。頬にしっとりとした温かい何かが触れる。それはクゥの舌だった。

「クゥったらどうしたの? くすぐったいわ」
 何度も舐められるので不思議に思ってクゥが舐めていない頬に触れてみると濡れている。雨で濡れたのかと思ったが、瞳から涙が流れていることに漸く気がついた。
「あっ……私ったらいつの間に泣いて……」
 言葉を発した途端、目から止めどなく涙が流れてきた。指の腹で涙を拭っても止まる気配はない。エオノラはクゥに舐めるのをやめるように手で制した。

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