呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 エオノラは気を紛らわせるため質問をすることにした。
「クリス様はいつ私がいることに気がついたのですか?」
「三十分くらい前だ。クゥが俺を呼びに来た。泣き疲れて椅子の上で眠っていたからベッドに運んだ」
「ご配慮くださりありがとうございます。それと迷惑を掛けしてしまってごめんなさい」
 居たたまれない気持ちになっているとクリスが構わないというように背中を軽く叩いてきた。その手つきは優しく、体温は温かい。

「……泣いていた理由を聞いても?」
「それは……」
 エオノラは話すべきか一瞬躊躇った。
(クリス様はずっとこの屋敷にいるし社交界とは関係ない。だからリックとアリアのことを話しても問題ないかもしれない)
 エオノラは「お恥ずかしい話ですが」と前置きを入れてこれまでの経緯を包み隠さず話すことにした。


「――そういう訳なので、初めてここまで歩いてきてしまったのは自暴自棄になっていたからかもしれません」
 侵入したのはルビーローズの音を聞いたからだが、死神屋敷まで来てしまったのは完全に無意識だった。
 叱られるのを覚悟して身を固くしていると、静かに話を聞いていたクリスがエオノラの頭を手でぽんぽんと叩いてからゆっくりと離れる。
 改めて向き合うとクリスがエオノラの頬を優しく撫でてきた。

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