呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


「ここ数日顔を出せなくてごめんなさい!」
「……構わない。ここに来ることをハリーに頼まれているとはいえ、強制はしていない」
 クリスは本に視線を落としたまま、淡々と答えた。
 暫く来られなくて怒っているか心配したがそうではなかったので安堵するエオノラ。しかし、彼は一度も顔を上げずに本の頁を捲って読み進めている。

「読書にお茶でもいかがですか?」
「必要ない」
「なら軽食はどうですか?」
「それも必要ない」
 クリスは短く答えるだけで、一向に顔を上げてくれない。
 エオノラは思案するとやがて首を傾げた。
「さてはクリス様、拗ねていますね?」
「す、拗ねてなどない!」
「……っ!」
 漸く顔を上げたクリスと目が合ったエオノラは堪らず声を呑んだ。その表情があまりにも切ないように見えてしまったから。

 エオノラからすればたった数日来られなかっただけ。しかしクリスからすれば何の連絡もなしに突然来なくなって、毎日不安にさせられたことだろう。彼は死神屋敷からは出られない。エオノラの身に何かあったとしてもそれを知る術はない。
 エオノラは眉尻を下げると謝罪した。
「本当に、何の連絡もせずにいてごめんなさい。実は私の社交界デビューが急遽決まってその準備に追われていたんです」
 これまでの経緯を詳らかに説明するとクリスは顎に手を当てて考える素振りを見せる。

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