呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


「今夜の装いはこれまでと雰囲気が違うね。落ち着いているし、何というか気品に溢れているよ」
 隣のゼレクが平生とは違う雰囲気に気づいて褒めてくれたのでエオノラは微笑んだ。
「ありがとうお兄様。今夜は私にとって戦場になるから普段とは違い、凜とした印象を与えたかったの」
「確かに女性にとって化粧や衣装は立派な戦闘服になるね。可愛らしい服装だと幼稚な印象を与えて舐められてしまう。それなら大人びた雰囲気を醸し出した方が策としては良い」

 これは連日相談に乗ってくれたお針子やデザイナーたち、そして髪をセットし化粧を施してくれたイヴのお陰だ。頑張ってくれた皆の努力を無駄にはしない。
 エオノラは呼吸を整えると入り口の先にある会場を見据えていた。

 令嬢の正式な社交界デビューとは王妃にお目に掛かることで初めて完了する。
 エオノラは午後に一度王宮へ赴き、王妃との謁見を済ませていた。彼女の第一印象は年齢不詳の美女だった。
 緊張しながらも、スカートを少し摘まんで挨拶をする。一言、二言の言葉を交わしただけだが、笑う表情はハリーに似ていて、改めてハリーが王族なのだと実感した。
 謁見を終えて無事に正式なデビューは果たした。しかし、周りの令嬢たちのような喜ばしさもこれから飛び込む世界への期待感も、これっぽっちも感じられなかった。

 いよいよ弱肉強食の世界である社交界で戦わなくてはいけない。他の令嬢たちと異なりマイナスからのスタートだ。
 なんとか悪い噂を払拭しなければ。そんな使命感の様なものを抱きながら戦場へと赴いている。列に並ぶ人々は次々と会場内へと吸い込まれていき、いよいよエオノラたちの番になった。
「緊張しているかい?」
「ちょっとだけ。だけど、大丈夫」
 ごくりと生唾を飲むと、意を決して足を踏み入れる。

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