呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


「婚約者である君に浮気を指摘されて苦し紛れに悪い噂が流れているエオノラ嬢に罪をなすりつけたんじゃないか? そうすれば自分はラッカム嬢に責められず、エオノラが攻撃されるからね。因みにデューク・セルデンだが、さっき休憩室がある廊下で女性を口説いていたぞ」
「……っ!! すぐに確かめて参ります。わたくしはここで失礼します」
 血相を変えたラッカム嬢は身を翻すと急いで休憩室のある廊下へと向かっていく。残された取り巻きも慌てて一礼すると彼女の後を追いかけていった。


 二人がいなくなると、周囲の貴族たちは何事もなかったように再び歓談を始める。興味がなくなった、とうよりは厳かな雰囲気を纏うハリーの存在で今起きた話題を口にできないのが妥当なところだろう。

 一先ず、場所を変えようとハリーから提案されたエオノラはそれに従ってバルコニーへと移動した。人気のないバルコニーで、エオノラは真っ先にお礼を口にした。
「助けていただきありがとうございます。私だけではこんなに早く状況を変えることはできなかったと思います。これもすべてハリー様のお陰です」
「社交界のゴシップに興味はないが、君の話が上がっていたから事情はおおよそ知っていた。日頃君にはお世話になっているからね。あと、補足しておくとゼレク殿にも仕事を手伝ってもらっていることはさっき政務室で会ったから話しておいた」
 ハリー曰く、研究している薬に使用する植物の採取を頼んでいるということになっているらしい。抜かりないハリーにエオノラは頭が下がる思いだ。

「それで、ゼレク殿はまだ戻られないのかい?」
「はい。一曲目のダンスまでには戻ってくると言っていましたが……」
「そうなのか? だが、そのダンスももうすぐ始まると思うぞ」
 ハリーはエオノラから会場内の一番奥にある玉座へと視線を向ける。つられてエオノラも眺めてみると、そこには国王夫妻の姿があった。
 国王が挨拶をすれば舞踏会は開始となり、オーケストラが演奏を始めるだろう。

「どうしましょう。お兄様は間に合わないかもしれない……」
 エオノラは顔を青くした。
 肝心のゼレクが戻ってこなければ一曲目のダンスを誰とも踊れないまま終わることとなり、再びゴシップのネタにされてしまう。考えただけで背筋が寒くなり、ぶるりと身体が震える。エオノラは自身をそっと抱き締めた。

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