呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


「今宵の華やかな舞踏会で踊らないなんて勿体ない。よろしければ私と一曲踊って頂けませんか?」
 優雅な所作でその人はエオノラの前に跪く。
「えっ……!?」
 突然の申し出にエオノラは瞠目した。
 どうして自分なのか不思議になって辺りを確認すると、うら若い令嬢は自分以外一人もいなかった。
(消去法でいくと、誘える令嬢は私だけになるわね)

 しかしエオノラは誘いを受けるべきか悩んだ。もしかしたらゼレクが戻ってきてくれるかもしれないという期待もあったからだった。
 相手の手に自分の手を伸ばしかけては引っ込めると繰り返していると、優しい声で話し掛けられる。
「今宵は仮面舞踏会。誰が誰と踊ったかなんて分からない。だが、デビュタントを表すラペットを付けている令嬢が一曲目で踊らないというのは体裁が悪い。それにその大人びたドレスは他のデビュタントと違って目に付く。仮面をつけていてもあなたがエオノラ・フォーサイス様だとすぐに周りは気づくでしょう」
 彼の言い分はもっともだった。
 今夜は他のデビュタントの令嬢と違い、大人びた服装をしている。さらに先程まで注目を浴びていたのだから、きっと周りの人たちは自分が誰なのか認識しているはずだ。

「そうですね。お誘いはありがたくお受けします」
 エオノラは差し出された彼の手に自分の手を載せた。
 ふと、彼と初めて目が合った。その瞳は緑色。しかしシャンデリアの光が当たる角度が変わった途端、緑色が一瞬琥珀色に変わったような気がした。
 琥珀色の瞳を見て、クリスの姿が脳裏に浮かぶ。
 するとエオノラの心臓が大きく跳ねた。
(も、もう。私ったら、見ず知らずの方をクリス様と重ねているのね。髪の色や雰囲気が同じだから、見間違えてしまったんだわ)
 こんな公の場に、呪われたクリスが来るはずがないと自分に言い聞かせる。
 頭を振ると気を取り直して彼と共に会場内の中心へと歩き出した。

< 146 / 200 >

この作品をシェア

pagetop