呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 すると、ハリーが困った表情を浮かべた。
「すべては君のためさエオノラ。……昨夜俺が舞踏会場に行ったのはクリスにエオノラを助けるよう頼まれたからだ。仮面舞踏会にするよう陛下にお願いしたのもあいつに指示されたから。理由はエオノラが周りから非難されないようにするためだと言っていたが……実際はクリス本人が会場へ乗り込むためだったようだな」
「クリス様……」
 クリスはエオノラが無事に社交界デビューできるか心配で舞踏界入りしていた。薬を大量に飲めばどんな結果になるのかも承知の上で。
 エオノラは震える唇を噛みしめると顔を伏せた。

 自分はクリスに助けられてばかりで何の役にも立っていない。
 どうして舞踏会が終わってから死神屋敷に来ないようクリスに頼まれたのか漸く合点がいった。昨夜の舞踏会で、人間でいられる残りの時間をすべて使い果たしてしまったのだ。

「自分を責めないでくれ。クリスの自我が完全に失われるのは時間の問題だった。これは俺の憶測でしかないが、クリスは自分が自分でいられる残りの時間をなげうってでも、君を救いたかったんだと思う」
 目頭が熱くなって涙が滲んでくる。
(どうしてそこまでしてくださるの? 私はクリス様に何も返せてない。私は無力で……助けを求めるルビーローズの力にだってなれていない……)
 すると胸に下げている柘榴石のペンダントが言葉を発した。


 ――侯爵の呪いを解くことができるのはあなたしかいない。


 触れてもいないのに突然話し掛けられて、エオノラは視線を柘榴石に向ける。

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