呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


「……そう。分かったわ」
 エオノラは努めて冷静に答えるものの、胸の痛みを感じて堪らず手で押さえた。

 もうリックと関わりがないと思うと胸が空く――そのはずなのに裏切られたことによる悲哀の方が増していく。その上エオノラの心境を複雑にさせるのは、相手が妹同然に可愛がっていたアリアだということだ。
 アリアは男爵家の一人娘で幼くして母親を亡くしている。父であるホルスト男爵は織物加工業を生業としている人で、アリアが幼い頃から材料の買い付けで外国へと出かけていて忙しい。

 男爵が不在の際は彼女が寂しくないよう、エオノラが屋敷へ呼び寄せて相手をしていた。
 エオノラの場合、両親は健在で自身が十歳になるまで一緒に過ごしていた。しかし、父が王宮の仕事で隣国へ行くことになり、それからは両親と離れて暮らしている。
 二人に会えなくて寂しいと思うことは何度もあった。しかし、エオノラの側にはゼレクがいた。パブリックスクール時代も長期休暇には必ず帰ってきてくれたし、宰相補佐の職に就いてからも屋敷から王宮へ通ってくれていた。
 そのお陰でエオノラは心の底から寂しいと感じたことは一度もなかった。
 対して、アリアには側にいてくれる家族が誰もいない。使用人の数も少なく、長年仕えている年配者ばかりだ。

 もしかするとアリアは愛情に飢えていたところでリックと出会い、優しくされて好意を抱いてしまったのかもしれない。
(リックは最初から私に冷たかったから、私のことは好きじゃなかったのね。そういえば、彼が一度うちに遊びに来た時、丁度アリアも遊びに来ていた。もしかするとあの時恋に落ちてしまったのかも……)
 今さらながらどういう経緯で二人が恋愛関係へと発展したのかを考えてみる。
 リックとアリアにはもともと接点がなかった。もしあるとすれば、エオノラがリックにアリアを紹介した時が一番可能性として高い。

< 18 / 200 >

この作品をシェア

pagetop