呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


「……できないわ。だって、フェリクス様はものじゃない。それに彼の気持ちだってあるのよ……」
「気持ちなんて関係ない。リックだって最後は私に夢中になった。私を選んだ。だからあの方も私を選ぶ。んもう、エオノラが私に譲ってくれないなんて珍しいわね。こんなの初めてだから…………もーっと彼が欲しくなっちゃった」
 アリアは軽い足取りでフェリクスへと近づいていく。

 丁度、一通りの挨拶を済ませたフェリクスもこちらに向かって歩いてきていた。このままだとアリアがフェリクスに接触してしまう。
 エオノラはアリアを追いかけようとしたが、何故か足が地面に縫い止められたようにまったく動かなかった。足に力を入れているのに震えて動けない。
 フェリクスの気持ちが自分に向いていることは知っている。しかし、自分と違ってアリアは庇護欲をかき立てるような愛らしさがある。

 前回のことがエオノラの頭の中を過る。
 もしもフェリクスがリックのようにアリアを愛してしまったら……。
(いや……フェリクス様を取らないで……)
 俯いて祈るようにぎゅっと拳を握り締めていると、アリアの声が聞こえてくる。

「フェリクス殿下、お初にお目に掛かります。私はホルスト男爵家の娘、アリアと申します」
「初めましてアリア嬢。この度は私の宴に参加してくれたこと、感謝申し上げる」
「いいえ、殿下のお姿を見られて私はいたく感銘しておりますわ」
 二人はそれからも和やかに会話を重ねていく。アリアは気の利いた言葉を掛けてフェリクスを楽しませた。アリアの口からすらすらと出る巧みな言葉を聞いていると、リックが彼女に魅了されたのも頷けた。
「……それで、もし殿下が私と話していて少しでも楽しいと思って下さるなら、是非ダンスをご一緒したいですわ」
 その言葉を聞いてエオノラは顔を上げた。
 二人を見ると、アリアは蕩けるような瞳でフェリクスを見つめ、親しげに彼の腕に手を置いている。
「私が、あなたと……」

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