呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


「あの、侯爵様はまだ四阿にいらっしゃるのですか? さっきから姿が見えないようですけど」
 尋ねると、ハリーはばつが悪そうな表情をする。
「……クリスは体調が優れなくて屋敷に戻ったよ」
「えっ!?」
 初めて会ったあの日も最後は苦しそうに胸を押さえていた。彼の病気はそんなに深刻なのだろうか。

 苦しむクリスを思い出して心配しているとハリーが真顔で言った。
「彼は、不治の病を患っているんだ。これはラヴァループス侯爵の呪いの一種だよ」
「呪いの一種ですか?」
「ああ。呪いはただ顔を醜くするだけじゃないのさ」
 暗い声色から察するに、クリスの状態は芳しくないようだ。

 エオノラが愁然として項垂れているとハリーが穏やかな声色で言った。
「心配する必要ない。俺がここにいるのはクリスを助けるためだから」
 どういうことなのかエオノラが首を傾げていると、四阿が見えてきた。

 そして、ティーセットが並んだテーブルの足下には、いつの間にか革張りの鞄が置かれている。
「君が四阿からいなくなった後、護衛騎士が鞄を届けてくれたんだよ」
 ハリーは椅子の上に鞄を置いて蓋を開ける。中にはいくつもの薬瓶がベルトで固定されていて、さらに聴診器や注射器も入っていた。

「俺は医学や薬学にはちょっと詳しくてね。クリスに合う薬を調合して定期的に届けに来ているんだ。これがあれば呪いを抑えることができる」
「そうだったんですね。その薬があれば侯爵様はきっと身体が楽になるんでしょうね」
 症状を抑える薬があると聞き、エオノラは胸に手を置いて安堵の息を漏らす。不治の病だから治すことはできなくても、症状の進行を抑えられるのならまだ救いがある。
(お祖母様は病気が見つかってあっという間だったから……)
 エオノラは目を閉じて亡き祖母の姿を思い浮かべる。

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