呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


「そうとも。この屋敷には使用人が一人もいないし、王族以外で交流のある人間もいない。誰かと交流しないと心が病むだろう?」
「……私のためというのなら、彼女を屋敷に上げるべきではなかった。あなたの軽薄な行動のせいでルビーローズが危険に晒されることになる。それ以上の秘密が知られてしまったら一体どうする?」
 ルビーローズ――それはクゥにとって命に代えても守るべき大切なものだ。ただ稀少価値が高いからではない。核心的なものがこの花にはある。


「……ルビーローズがなければ、ラヴァループス侯爵の呪いは解けない。解けなければこの呪いは次の世代へ、確実に受け継がれていく」
 ハリーはバタークッキーに手を伸ばしながらクゥを宥めた。
「心配しなくともエオノラ嬢にはさっき条件をつけた。いつまでも人との交流を拒絶していては仕方がない。彼女はクリスの醜い姿を見ても失神しなかった稀有な存在だ。――まさか、魔力持ちなのか? 魔術師の可能性があるなら法律に則って速やかに保護して魔術院に入れなくてはいけない。が、そうなるとクリスの世話を頼めなくなるな」
 ハリーとしては誰かにクリスの面倒を見てもらいたいところだが、普通の人間は侯爵の醜い姿に失神する上、顔を見たら死んでしまうという噂を真に受けている。そのため、どれだけ給金をつり上げて使用人を募集しても手を挙げる者はいなかった。

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