呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 クリスは話すことがもうないと判断したのか、下を向いて再び手を動かし始める。くじけそうになったエオノラは手に持っているバスケットを思い出し、次なる作戦に出た。
「侯爵様、軽食をお持ちしましたので召し上がりませんか? うちの料理人が焼くパイは絶品なんですよ」
「生憎腹は減っていない」
「ハリー様から伺っています。この屋敷には使用人がいらっしゃらないんだとか」
「自分のことくらい自分でできるし、保存食がいくらかある」
「それなら尚のこと美味しいご飯を召し上がれていないのでは? いくら保存食があるとはいえ、毎日塩漬けや酢漬けでは飽きてくるでしょう? 栄養だって偏ります」
「だから腹は減っていないと……」
 突然、クリスの言葉を遮るようにぐうぅっと腹の虫が鳴った。

 口を引き結ぶクリスは苦々しい表情を浮かべる。嘘がバレて恥ずかしそうだ。
「お腹の虫さんが鳴っているようなので、四阿で準備していますね。暫くしたらいらしてください」
 したり顔で言うエオノラは悔しげなクリスを尻目に準備に取り掛かった。

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