呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 準備を終えてガーデンハウスから四阿へと向かう。念のため、銀盆の上に載せているカップは三人分だ。
(ハリー様の本当の目的は侯爵様に会うためなんじゃないのかしら? だったら呼びに行った方が良いかも? だけど私は屋敷の中に入るのを禁じられているし、侯爵様だって体調が優れないようだし……)
 体調の悪いクリスをクゥに呼んでくるよう頼むべきか悩んでいると、とうとう四阿に辿り着き、テーブルの上に銀盆を置く。すると、側にはたくさんのフルーツで彩られたフルーツタルトが置かれていた。色のバランスだけでなく、盛り付けまでもが美しく、ナパージュされてつやつやに輝く様は芸術品のようだ。

 流石は宮廷の菓子職人。エオノラは見るからに美味しそうなタルトに目を輝かせた。
「気に入ってくれたみたいで良かった。雇用主としてたまには感謝の意を表さなくてはと思ってな」
 ハリーは既にカットされているフルーツタルトの一ピースを皿に載せてエオノラの前に置いた。
「ありがとうございます。大変光栄です。……ところで侯爵様はお呼びしなくても大丈夫でしょうか?」
 カップにお茶を注ぎながら尋ねると、ハリーが目を瞬かせてから呵々大笑した。
「今日はエオノラが上手くやっているか様子を見に来ただけだからあいつに用はない。なあクゥ?」
 テーブルの上に肘をつき、手のひらに顎を載せるハリーはクゥに話し掛ける。
 クゥは琥珀色の瞳を吊り上げてハリーを睨んでいたので、エオノラはすかさず尋ねた。
「ハリー様、クゥは朝ご飯がお預けになって不機嫌なんです」
「いいや、それは違うな。俺が気安く君のことを『エオノラ』と呼ぶから気に食わないんだろう」
 エオノラはあっと声を上げた。

< 89 / 200 >

この作品をシェア

pagetop