呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 狼神話は七つの罪源に蝕まれる人々の姿を見て、心を痛めた狼神が天からやってきたことから始まる。彼は罪源を払い、力を使って不毛の土地を緑豊かな土地へと変えていった。しかし力を使い果たした結果、狼神は天に帰る力すらなくなってしまった。
 アーサー王は森で動けなくなっている狼神を助けたことがきっかけでこの土地を賜った。
 狼神は永遠の眠りにつく前にこう言った――我の屍の上に咲く植物をその血を以て守り花を咲かせよ。番を見つけなければこの土地の厄災は永遠に主である王家を蝕むだろう――と。
 狼神の残した言葉が先代侯爵の言う呪いを解く手がかりであるとクリスは考えている。さらに有力な情報を掴むためにいろいろと調査はしているが大したことは分からない。

(また人間に戻ったら実行しなくては。呪いが完全となる前に手は尽くしたい)
 静かに佇むルビーローズを憂いを帯びた瞳で眺めていると、不意に後ろから黒い影が差した。
「クリス、こんな時間まで外にいては身体に障るぞ」
「ハリー、わざわざ戻ってきたのか?」
 馬車がやって来た音と、彼の匂いが微かにしていたので戻ってきていることは認識していた。
 ハリーは隣に並ぶとクリスと同じようにルビーローズをしげしげと見つめる。

「クリスのお陰で手入れは行き届いているし、日当たりだって抜群。開花するのに何も問題ないはずなのにな……」
「何か問題があるから花は開かないんだ。……やれることは地道にやる」
 暗い感情を悟られないように、クリスは努めて穏やかな声で言う。

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