甘くて、切なくて、また恋を
「ごめんね、遅くなっちゃって」

僕は謝り、小雪ちゃんの前に座る。小雪ちゃんはいつもより暗くて、どこか辛そうだ。大好きなミルクティーもほとんど飲んでいない。

「……何かあった?」

僕が訊ねると、小雪ちゃんは俯いていた顔をゆっくりと上げる。その目は真っ赤になって腫れていて、先ほどまで泣いていたことがわかった。

「実はね、春に親の仕事の都合でアメリカに行かなきゃいけなくなったの。日本に戻ってこれるようになるかはわからない」

「えっ……」

だからさようなら、そう言って泣きそうになりながら立ち去っていく小雪ちゃんを、僕は引き止めることができなかった。ただショックで固まって、目の前に置かれたミルクティーを見つめる。まだ湯気が立っていて、おいしそうだ。

「……」

僕はティーカップを持ち、一口飲んだ。甘い。甘さがいつまでも残っている。でも、小雪ちゃんが一口くれた時みたいな気持ちにはならなかったんだ。

涙が、頬を伝っていく。こうして実った初恋は散ってしまった。
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