スキル〖魅了無効〗を獲得しましたが、甘い言葉に溺れたい〜溺愛?何それ、美味しいの?〜



 直接本人に聞く手間が省けちゃった。

 ――ここが噂の離宮だと気づいていれば、こんな結末を味わなくて済んだのかな。

 もう何もかも遅いことで、私にはここにいる資格がない。

 その証明は今この場が全てを物語っているのだから、目を背けることは出来ない。

 選ばれたのは紛れもなくリーンと呼ばれたあの子で、私じゃなかったんだ。


「好きだったよ……レイ」


 直接伝えることも出来ない気持ちを小さく吐き出して、その場から逃げるようにして元来た道を辿って走る。

 月が雲に隠れたのかあれだけ照らされていた道は、一気に暗くなった。

 溢れんばかりの涙が頬を伝うけれど、ただ自分の気持ちに嘘はつきたくなくて涙を無理に止めることはしなかった。

 そして、切なさの中に一つの感情が芽吹く。

 最後のお別れするまで、どうせなら好きだった人の役に立ちたい。

 私は私らしくでいいんだと気づかせてくれたあの人に向けて、私に出来ることを精一杯やってみよう。

 叶わない恋だと分かっていても、好きな人の目に映らないとしても……この国の国王様は素敵な人なんだって、皆に伝えたい。

 悲しみの涙を流しながら、その冷たさで気を引きしめるようにしながら、ぐっと下唇を噛み締めながら私は前に向かって歩みを止めることはしなかった。





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