悪役令嬢ですが推し事に忙しいので溺愛はご遠慮ください!~俺様王子と婚約破棄したいわたしの奮闘記~
いえ、それは記憶が戻る前の私であって、前世で三十数歳まで生きた今の私は、どんなイケメンを寄越されても喜ばないんですよお父様……。

アメリアは、見合いを父に明かされた時のことを思い返した。あまりにも嬉しそうに言われて、そんな本音は答えられなかった。

悪役令嬢〝アメリア〟が意地悪に走る前の父は、二人の子供を喜ばせることが大好きな親バカだった。とても好きだなぁと、記憶が戻って改めて思ったほどだ。

――私は、自分が前いた世界の父も大好きだった、と思う。

その際、そうとも感じた。前世の家族の記憶は、あまり思い出せないでいる。しかし確かに尊敬して、愛していただろうことはなんとなく分かった。

恋しい、と不意に感じることがあったから。

この世界で〝悪役令嬢アメリアの父〟と話をしていて、たまに涙が出そうになるくらい嬉しいと感じることもあった。

もしかしたら、自分は前の世界で〝父〟と早々に離れ離れになってしまう事情があったんだろう……そう思ったら、いよいよ父を大切にしたくなった。

そう思い耽っていたアメリアは、ふとエリオットの声が耳に入った。

「ふん、お前にとっては、待ちに待った見合いなのだろうな」

――いえ、〝高貴なる令嬢〟に浮かれて、腹黒王子なメインヒーローのことなど、すっかり忘れていました。

嘘をつけない性格のアメリアは、笑顔を張りつかせたまま返答に困った。

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