悪役令嬢ですが推し事に忙しいので溺愛はご遠慮ください!~俺様王子と婚約破棄したいわたしの奮闘記~
するとマティウスが、「ふぅ」と吐息をもらして告白する。

「僕も、彼女がいいよ。……彼女しか見えないんだ。そう自覚したら、もう他の誰とも踊れなくなってしまった」

でも、と口にしたマティウスが言葉を呑み込んだ。

吹き抜けた夜風が、二人の間を通りけていった。外を見つめる彼の眼差しは、望んでも叶わないのではないかとう切なさが漂っていた。

「なら、頑張れ」

エリオットは、兄であるマティウスの背中をばしんっと叩いた。

「遠慮するのはお前の悪い癖だ、他の誰とも踊れないくらい好きなら、諦めんな。話は以上だ」

あっという間に話の終了を告げられた。ぽかんとしていたマティウスが、そのために呼び出されたようだと気づいて苦笑する。

「君の口の悪さは、一体誰に似たのかな」

「さぁな。俺は元々、優等生じゃない」

「ふふっ。別に僕を引き立てるために、そんなことをしなくてもいいんだよ」

エリオットは、照れ隠しのようにぶすっとして顔をそらした。

「……別に。そんなんじゃねぇし」

「いつまで経っても、そういう不器用なところは変わらないなぁ。……うん、ありがとう。僕も勇気が湧いてきたよ」

信頼している弟の肩を、マティウスはしっかり抱き寄せてそう言った。エリオットは尊敬している兄と、久し振りにコツンと頭の横を合わせた。

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