悪役令嬢ですが推し事に忙しいので溺愛はご遠慮ください!~俺様王子と婚約破棄したいわたしの奮闘記~
「言っただろう。好きだという気持ちに嘘はない。俺は、お前がこれまで寂しかった分も全部忘れさせるくらい、とことん愛してやる」

目撃者達が「まぁ」と頬を染める。これはめでたい、弟殿下も順調らしい……そんな声が上がり出して、会場内はより祝福ムードになった。

控えているクラークが、相槌を打つように頷いている。

アメリアは、息もただえだった。自分を支えている美しい彼は、ゲームのメインヒーローではなく、ただ一人の男なんだとようやく自覚した。

「覚えているか? お前が、俺に恋に落ちれば問題ない。それが決まるまではキスを控えるよう配慮しよう、と」

唐突にそう囁かれて、アメリアは記憶を手繰り寄せる。

「な、なら約束違反じゃないですか」

アメリアは、そう勢いで言い返したところで、先程からドキドキが止まらなくて赤面しっぱなしの自分に気づく。

――私、エリオットを強く意識しているんだわ。

そう察した瞬間、恋も未経験の初心なアメリアは、思考回路がショートした。耳まで真っ赤になってしまった彼女を、エリオットはにーっこりと見下ろす。

「愛しい婚約者アメリア、俺は手放すことなど考えられないくらい君が好きだ。そろそろいい加減素直になって、このまま結婚してくれないか?」

そのプロポーズの言葉を聞いた瞬間、アメリアは限界がきて、彼の腕の中でプツリと意識が飛んだ。

遠い場所から見守っていた兄のロバートは、そりよりも前に崩れ落ちていた。父であるクラレンス伯爵が「失礼」と言って、引きずっていく。

その日、第一王子マティウスと、宰相の娘である才女ミッシェルの婚約が決まったのだった。

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