稲荷寺のパラレル少女
☆☆☆

本殿に入ると今日も宴は始まっていた。


昨日と同じように二足歩行のキツネたちがお稲荷さんを食べたり、酒を飲んだりして楽しそうだ。


だけど良介の心は晴れなかった。


なにせこっちの世界の自分は今も誰かに命を狙われているのだ。


あのモヤのせいで。


そう思うといてもたってもいられない気持ちになる。


そういえばあのパン屋の女性は良介本人を狙っていた気もする。


ここにいる良介も、こっちの世界の良介も同じ人間だから見分けがつかなかったのかもしれない。


だとすれば、自分の命も危ないことになる。


「良介さん、難しい顔をしてどうしたんですか?」


ひとりのキツネが杯を持って近づいてきた。


「だからお酒は飲めないんだってば」


「安心してください。ただの栄養ドリンクですから」


そう言われて匂いをかいでみると確かにお酒の香りはしなかった。
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