小さな願いのセレナーデ
そしてしばらくすると、昂志さんが迎えに来た。
「あの、どちらに行くんですか?」
「あぁ。藤屋デパートに」
(えっ、また?)
私は大輔さんの運転する車に乗って、昨日も外商の人が来たデパート、藤屋デパートに向かった。
「いらっしゃいませ。久我様、お待ちしておりました」
駐車場で出迎えてくれたのは、これまた昨日も会った外商の人。
案内された先にあったのは、広々とした個室。多分VIPルームと言われる場所だろう。
「昨日昂志様よりお伺いしておりまして、奥様に似合うお洋服を用意して頂きたいと」
「えっと…私は奥様じゃなくて……」
「えっ!これは失礼…」
焦って頭を下げているが、昂志さんは「近いうちにそうなるから、広めといて」と。
それを聞いて、にっこり笑って「畏まりました」と頭を下げている。
私はそれを聞きながら、はぁと大きなため息をついた。
外堀を埋められてる気分。
「奥様は優しいパステルカラーやソフトな中間色が似合うかと思いまして、こちらにご用意させて頂きました。どうぞご覧ください」
ラックに掛けられているのは、ライトグレーのブラウスやフレアスカート、ラベンダー色のワンピース等、沢山の洋服が並んでいる。
どれもセンスが良く、私も好きなデザインでさすがだなぁと感心。唯一お値段だけは感心できないが。