小さな願いのセレナーデ
時間にすると約五分。短いあっという間の演奏が終わり、バイオリンを下ろすとパチパチと小さな拍手が聞こえてきた。
碧維もこっちを見ながら、笑顔で手を叩いていた。
その様子に自然と笑顔が溢れた。


「晶葉」
舞台の袖から、昂志さんの声がした。
足音が迫ってくると同時に、私はとめどなく涙が溢れていた。


だって彼の手には──花束を持っていたから。
あの日と同じ、小さな薔薇の花束を。


「本当は三年前、言うはずだった言葉を言わせて欲しい。俺と結婚してください」

──目の前の彼が、三年前の姿と被る。
教会での発表会、花束を持って現れた彼は、私の王子様だった。
唯一私がヒロインになれた時間だった。



──やっぱり私は、この人が好き。

私に似合わないぐらい、完璧な人だ。
それでも私は、この人が好き。
いつでも私の心を拐っていってしまう。この人だけが。


涙が溢れて、顔を上げられない。
だけど花束を受け取り、「はい」と頷く。

彼は腕の中に抱き寄せると「愛してるよ」と。
私は涙を流しながら、彼の胸にしがみついていた。

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