小さな願いのセレナーデ
碧維は自分の椅子を降りて、晶葉先生の膝によじ登って堂々と座った。晶葉先生も嫌がらず、当たり前のように碧維を抱っこしている。実はなかなかの衝撃的な光景。私だったら「行儀が悪い」と一蹴されていた。


二人の隣に、お兄ちゃんも移動してきて座った。

「ほんっと野菜食べないよなぁ」
「でも最近は味噌汁だったら食べてくれる感じだから、まだマシよ」

そう二人は微笑み合っている。
碧維も入れて並んで座っている姿は、どう見ても幸せな家族の景色。

それはずっと、私が欲しかったもの。
こんな輪の中に、ずっと居たかった。


きっとお兄ちゃんもそうで……だから私は、それを邪魔する存在なんじゃないかって。

「……あのさぁ、相談があるんだけど」
片付けが終わった直後、勇気を持ってお兄ちゃんに話を切り出した。

「何だ?」
「私さぁ、学期末の考査終わったら……早めにウィーン行った方がいいのかなって……」
「うーん、一応入試が終わったら、まだ三月までは日本に居る予定だろ?」
「でも殆ど学校行かなくていいし…せっかくだし、向こうで暮らした方がいいのかなって……」
「でも四月までどうするつもりだ?」

入試は多分、余程のヘマをしない限りは大丈夫で、大学自体への正式な入学は七月だが、四月から大学と提携してる語学学校に通い、ゲルハルト先生のお弟子さんから入学するまでレッスンをしてもらう予定だ。
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