小さな願いのセレナーデ
「水曜日は瑛実の授業が早く終わるから、なるべく早く帰るようにしてる。何かあるなら、俺かユキさんに言って欲しい」
「私も水曜日は居ますから、何なりと申し付けくださいね」

まだ教えるとは言ってないが……二人の発言からして、断れなさそうな雰囲気を感じる。

「えっと、まず、瑛実さん」
「先生、さんじゃなくていいです。呼び捨てでも」

瑛実さん……いや、瑛実ちゃんは、ニコニコと屈託のない笑顔。
あぁ…… これは、正真正銘のお嬢様だなと。
学生時代の同級生に何人か居た、純粋培養されたお嬢様の笑みだ。『金持ち喧嘩せず』の体を表す、毒気の抜ける顔。

中途半端なお金持ちだと、マウント取り合いで性格悪い人も多い……のは、まぁ過去の同級生の話だが。
私はそのマウント取ってくる相手が多くて疲弊していたのは余談であるが。


「ええっと、じゃぁ瑛実ちゃん。大学卒業後は、ウィーンの方に行く予定だと」
「はい、この前のゲルハルド先生のセミナーに行って、ちゃんとアポ頂きました。入試に合格したら、ゲルハルド先生の門下生になる予定です」

音大への入学は、少し他の大学とは違っていて、師事する先生を探すことから始まる。
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