小さな願いのセレナーデ
「元プロから見て、瑛実の演奏はどうなんだ?」

うーんと、さっき聞かせて貰った瑛実ちゃんの演奏を思い出す。

「正直な話、少し癖はある。弓の角度が安定しない所はあるよね。例えばGの音が少し甘くなる回数は多いのが目についた」
技術的には、ちらほら拙い所は見れる。
でもまだ瑛実ちゃんは高校生。鍛練を積むことで、いくらでも乗り越えられる年齢だ。

「でもすごくいい音色を出すと思う。すごく音が柔らかくて、伸びる音が気持ちいいなって思った。……大成する人の音だと思う」
惹き付ける音が出せるのは、技術以上に天性のものだ。それが備わっているから、彼女はこれからも伸び続けると思ったのだ。


「瑛実がバイオリンを始めたのは九歳の頃だ」
「九歳?!」
「あぁ、ピアノはやってたんだが、ある日突然バイオリンをやりたいと言い出したんだ」

普通は三歳から七歳──小学生に上がるぐらいまでに始めないと、プロになれないと言われている。九歳ならコンクールの上位に入る子もいるぐらいだ。
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