小さな願いのセレナーデ
ピッとIHの止まる音が聞こえると、彼が振り向いた。
「できたよ」
さっきとは違う、彼の穏やかな声に、少し安堵した。いつもの声色だ。
玉子の雑炊がお皿に二つ盛られて、テーブルに運ばれる。
「俺も一緒にいただく…」
「まんま、まんま」
さっき食べた碧維も、テーブルに身を乗り出す。
「俺のを少しあげるから、な?」
そう彼が、口角を上げて微笑む。その佇まいは、やはり上品で優雅な笑みで──この狭い部屋には不似合いだった。
(ウサギ小屋にやったきたライオンって感じ……)
スプーンの使い方一つでも、彼の所作は美しい。
見事に彼の育ちを表していると思う。
でも、手に持つスプーンは100均のもの。盛られたお皿もお茶の入ったコップも、全てホームセンターで買った安物だ。
その全てが、彼の前だと色褪せて見えてる程、彼に不釣り合いなものだ。
そしてそれを選んだ自分も──安物がしっくりくる自分も、きっとそうなんだろう。