小さな願いのセレナーデ
眠くてぐずる碧維を、何とか瑛実ちゃんの手助けでチャイルドシートに乗せた。
多分車に憧れがあったんだろう。思ったよりも暴れずに乗せることはできた。

発車してもしばらくはぐずぐずしていたが、案外すぐに瞼が重くなり目を閉じた。
これで一安心…と、安堵のため息が漏れる。


「そういえば君の怪我は大丈夫なのか?」
昂志さんがそう口を開く。
一瞬動揺し、視線が泳いだ。

「えっと……あの……?」
「あのウィーンから帰国後すぐじゃないのか?新潟の事故は」
「な、なんで知って……」

確かに報道はされたが、私個人の名前は出なかったはず。
しかもなるべくこの件は、公にしないようにしていたはずだ。


「帰国後すぐの桐友学園大学、蒲島教授と原教授の主催の新潟公演、君は出演していた」
「そうだけど…」
「あの日地震の影響で、リハーサル中に出演者の一人が頭に軽い怪我をしたと報道があった」
「そうだけど…」
「そこから半年間、君は楽団のコンサートにも出演せずに退団した。何かあったと考えた方が早い」

図星を突かれて、言葉が出なかった。

「何があったんだ、教えて欲しい」
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