小さな願いのセレナーデ

ずっと私は、彼に謝らなきゃいけなかった。
空白の三年間、何があの時起きていたのか。

もう二度と会わないだろう。
その事に甘えて、私は逃げていただけだった。全てを投げ出して、放棄していただけなのだから。


「その通り。あの日私は、頭部に怪我をしたの。当時は自覚症状が無かったけど、後から耳の聞こえかたがおかしくなった」
「あいつもあの日、居たんだな?」
「むしろ……私が秀機君を、庇ったの」


ウィーンから帰国後初めての公演は、所属していた東京セントラル交響楽団の公演ではなく、桐友学園主催の公演だった。
地方の自治体と共同企画で、蒲島先生と原先生が主演。そしてサポートとして数名、主にプロとして活動しているメンバーが集められる公演で、その日は私ともう一人同じ楽団のバイオリンの先輩、そして秀機君の三人がサポートメンバーだった。


まさにそれが起きたのは、舞台のリハーサル準備の時。「そろそろお願いします」とスタッフに呼ばれて、私達は列になって楽屋から舞台に向かっていた。
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