小さな願いのセレナーデ
気付いたのはそれから一時間後、病院だった。
なぜかベッドの上で、意識を取り戻した。
「軽い脳震盪でしょう」
検査の結果、そう診断された。
「後から症状が出る可能性があります」と、確かに医者はそう言っていた。だがその時は問題もなく、異常は全くなかった。今更代わりの人も探せない状況で、その日は普通に舞台に立って演奏した。
ただ少し、音階が狂って聞こえる気はしていた。
まぁ事故後だしこんなもんだろう、そう思っていた。
その後も特に、日常生活には支障はなかった。
確かに少し音階がブレたように聞こえることはあった。でもそんなに気にする程でもなかった。
第一テレビも見ずに、毎日部屋でバイオリンを弾いてるだけの生活だったから、あまり他の音に接する機会がなかった。
だから異変をはっきりと自覚したのが、そこからニ週間後。楽団全員でのリハーサルの時だった。
(あれ?おかしい……)
遠くに聞こえる、クラリネットやトロンボーンなどの木管楽器と金管楽器の音色。パリッと大きく響く音に、なぜだか言い様もない違和感があった。
そう言えばさっきから、自分の音も何だか定まらない。
早く全員のチューニングで、他の人と音を合わせたい。そう思っていた。