小さな願いのセレナーデ

しまった……と言い訳を考える前に、涙が溢れてきてしまう。

「……そうよ、あなたの子なの」

一度認めてしまうと、もう駄目だった。
突っ伏したまま、涙が次々に溢れて止まらない。

「ごめんなさい」

ただ私の咽び泣く声だけが、部屋に響いていた。


「碧維を産んでくれてありがとう」
そう彼が言って、顔を上げた。
私は今まで……誰からも、そんな言葉を言われたことがなかった。
彼が初めてだったのだ。碧維の存在を、肯定してくれたのは。

彼は自分の指で、私の涙を絡めとる。
指先から彼の体温を感じて、また泣きたくなる私をそっと抱き寄せる。

「何もない、なんてそんなことはない。俺は晶葉が居てくれるだけでいいんだ。それだけで俺には価値がある。先生を辞めようがバイオリンを辞めようが、晶葉が居てくれるなら、それでいい」

彼の大きな胸の中にすっぽりとおさまると、また抱きしめる手に力が入った。
久しぶりに感じる彼の体は暖かくて、逞しくて、体重を彼に委ねる。
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