No rain,No rainbow
今日の夜ご飯は、安売りをしていたカツオのたたきに、玉ねぎスライスとネギのみじん切りをたくさん乗せたものと、豚汁とアボカドとトマトのサラダ。

狭いキッチンで、肩を寄せ合いながら作るご飯。

たまにぶつかっては、笑い合う。

「律さん」

「詩さん」

お互いがお互いの名前を呼ぶ声で振り返る。

「…きゃ…」

「…うわっ…」

体と体がぶつかって、後ろに倒れそうになる私の腕を、強く引いた律さん。

「大丈夫、ですか?」

「大丈夫、です」

キッチンの床にふたりで座り込む。

淡い蛍光灯の下、狭いキッチンで、見つめ合う。

どちらが先に行動に移したのか。

今となっては、わからないしどうでもいい。

見つめ合って、どちらともなく口づけた。

私にとって、人生初の、とてつもない優しい口づけ。



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