愛しの君がもうすぐここにやってくる。

少しして彼が答えた。
「なかには琵琶の名手に女性もいることはいるのですが。
女性が演奏するのは箏が一般的だと思います。
なので楽器をやるのであれば箏にすべきかと」

あの、だから箏じゃなくて。
私は琵琶をやりたいって言っているんですけど。
それに女性っても桔梗さんだって琵琶ができるし、言い方が桔梗さんに失礼じゃないだろうか。

御簾の隙間から見える彼の後ろ姿に向かって言った。
「な・・・なんで、どうして琵琶やっちゃいけないんですか。
桔梗さんだって・・・」

本当ならここで引き下がってもよかったけれど。
でももう今を逃したら二度と頼めない、そう思ってどうしてもという思いが大きくなる。

「ああ、彼女は・・・違いますから」

違うってなにが?
そこに反応してしまうと話がずれていってしまいそうだから、なにも言わない。

「やりたいこと・・・どうして我慢しなければならないんですか?
周りの女性がどうこうでなくて、私が、琵琶を、やりたいんです」

「・・・・・・」
彼は腕を組んで考えるような仕草を見せる。

「・・・だいたい、会話するのにこんな御簾越しとか息苦しくて、会話していてもひとりぼっちみたいで・・・。
だから気を紛らせるためにも好きな楽器ができたらって思って」

そう言いながら、こんな自由のない時代、私、絶対に嫌だ。
また帰る、帰りたい・・・そんな思いがよぎった。
同時にみんなの姿が目に浮ぶ。
お父さん、お母さん、お兄ちゃん、みんな…。

やりたいことやったらダメだって言われて、それで駄々こねて、格好悪い。
こんなのまるで小さな子どもみたい。
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